フラッシュバック


昔書いた小論文を思い出した。
そもそものテーマがなんだったかは忘れてしまったけど。
その中で高三の自分が滔々と述べていたのは「私は満員電車が好きだ」ということだった。


勿論気持ちのいい環境な訳は無い。暑いし苦しいし、時によってはなんだかわからないような臭いまで漂ってくる。ただ、私にとって満員電車は特別な場所だった。


こんなにいるのに、たったひとり。だけどあたたかい。



そもそも私はパーソナルスペースが広いタイプの人間だ、あまり人に近づけない。それは心の距離だけの問題ではなく「現実の」距離についてもだ。他人と至近距離で話せない、ボディタッチも極端に苦手。それでも、満員電車の中ではそれが許容できるのだ。これだけ他人がそばにいることがシチュエーションとして認められている、数少ない場所だ。
スタンディングのライブも似たようなものではあるが、意味あいが違う。皆が同じ目的を持って集っている。現実の距離感を許容できるというところではこちらも当てはまるが心情的には全く違う。ライブの途中で夢から覚めてしまったら、この一体となった塊の中で自分がひとりだと気づいてしまったら。
それは、とてつもなくつめたい。


満員電車は違う。
誰もが他人と自分を隔離している。それでもこの距離に居ざるを得ない。
現実の距離がこれほどに近くて、心の距離がこれほどてんでんばらばら瞬間は、他にはめったに無いだろう。それが「自分だけではない」ことを確認すると、私はすごく安心して自分の中に沈んでいける。ほっ。
自分勝手な空想を展開していても誰も気にしない。でも、あなたたちはここにいてくれる。ほっ。

だから、私は満員電車がすきなんだ。





そんなことを考えていた、10年前の夏。
変わってないね。